はじめに「起業特例」は、スタートアップ企業の発起人として投資した場合に、株の売却益にかかる税金を軽減できる制度です。令和7年度(2025年度)の税制改正で、この起業特例のルールが大きく変わりました。今回は、税制改正対応版の起業特例申請ガイドラインが発表されたので解説していきます。主なトピックは3つです。①再投資できる期間が延長②株式の保有期間ルールが新設③税務署への報告義務が追加されたこの記事では、この3つの改正点を丁寧に分かりやすく解説します。1. 再投資期間が翌年末まで延長(改正①)改正前のルールこれまでは、株式譲渡益が出た年の同じ年中に、スタートアップへ再投資しなければ特例を使えませんでした。例:2025年5月に株を売って利益が出た場合、2025年12月31日までに投資が必要。このルールだと、「投資するまでの時間が短く余裕を持って検討できない」「11月や12月に売却した場合は期間がほぼない」といった声がありました。改正後(2026年以降取得株式から適用)再投資の期限が翌年末まで延びます。例:2026年5月に株を売って利益が出た場合、2027年12月31日までに投資すれば適用される。実際の手続きの流れは以下の通りです。株の売却益が発生した年の分の確定申告時に書類を提出すれば、その次の年の確定申告の際に還付請求ができます。2. 株式の保有期間ルールが新設(改正②)起業特例の非課税措置を受けた株式は、取得した年の翌年末まで売らないことが条件になりました。もしこの期間内に売った場合は、非課税ではなく課税の繰延べ扱いに切り替わります。注意点同一銘柄でも、起業特例と起業特例以外の株式が混ざっている場合は、起業特例の株式から譲渡したとみなして保有期間内の譲渡かどうかを判定します。保有期間内でも売ってよい例以下のような場合は、期間内に売っても非課税となります。上場(IPO)後の譲渡譲渡先が議決権の50%超を持つことになる法人への売却合併・会社分割・株式分配・株式交換・株式移転・株式交付特別清算・破産手続きによる譲渡役員や重要な従業員への取得価額以上での譲渡限定承認に伴う相続や遺贈相続や遺贈で非居住者に移転する場合3. 税務署への報告義務が拡大(改正③)改訂前のルール株式異動状況通知書の提出は、控除額が20億円を超える場合のみ必要でした。改正後(2025年4月1日以降の譲渡から適用)金額に関係なく、すべて報告が必要になります。発起人(スタートアップの創業者)は、発行会社株式を譲渡または贈与した場合は、投資先の企業に報告する必要があり、投資先企業(スタートアップ)は、株式異動状況通知書を税務署へ提出することが求められます。スタートアップから発起人への交付書類発起人(スタートアップ創業者など)の創業者は保有している発行株式会社の株数が変わった場合、投資先企業に報告を行い、その投資先企業は、株式異動状況明細書を作成し、発起人へ交付することが必須となりました。まとめ令和7年度税制改正に対応した起業特例のガイドラインに基づくと投資猶予は延長(2026年1月1日以降に取得した株式から適用)保有制限が新設された(2026年1月1日以降に取得した株式から適用)税務署への報告が強化された(2025年4月1日以降に行われる株式の譲渡又は贈与から適用)となり、制度がより実用的なものへ変わりつつあります。制度を深く理解し、期限や提出書類を確実に把握しておくことが制度を正しく活用できる鍵になるでしょう。本記事の正確な内容について知りたい方は、以下の経済産業省「起業特例申請ガイドライン」をご覧ください。経済産業書『起業特例申請ガイドライン』※今回は、あくまでも起業特例について、概要の解説を示したものにすぎません。本記載方法のご案内を参考にされたことにより、万一損害等が生じた場合には一切の責任を負いませんのでご了承ください。起業特例に関する正確な情報は経済産業省のホームページをご覧ください。