記事の要旨日経新聞の記事が伝える通り、米英の中堅〜大手会計事務所でPE(プライベート・エクイティ)資本の受け入れが加速している。目的はAI・デジタル投資やM&A資金の確保である。伝統的な共同創業者のみの出資から外部資本の活用への流れが起こっている。日本では規制上の制約が大きい一方、グループ経営の工夫次第で、税理士事務所や会計事務所にも外部資本が入り得る、というのが現実的に起こり得る。それでは、直近の代表事例を見てみよう。直近の代表的な事例大型バイアウト Grant Thornton UKは24年末にCinvenからの出資で合意し、推定評価額は最大約15億ポンド(約3000億円)。英会計業界で過去最大級のPE案件となった。評価額10億ドル超・40%出資 Wipfliは25年8月にNew Mountainから出資を受けた。公式発表は比率を明かしていないが、40%程度・評価額10億ドル(約1500億円)超との報道も。Baker Tilly(US)×H&F24年2月、Hellman & Friedman(H&F)が主導する大型投資。なぜ今、PEマネーが入ってきているのか?AI/デジタル投資の巨額化 元記事でも触れられた通り、生成AI・監査自動化・サイバー対応は数十億〜数百億円規模の継続投資が必要になる。巨大資本の力を借りることで、レバレッジを効かせて成長投資を加速することができる。エクジットでIPOが視野に PEマネーで規模を作った会計グループの出口(エグジット)手段として、公募市場(IPO)が有力な受け皿になりつつある。この意義としては、PEからPEの二次売却だけでなく、公開市場からの資金調達という別ルートを示し、エグジットに多様な手段が取れるというメリットがある。日本へ波及はするのか?では日本はどうか。監査法人・税理士法人の出資規制が厳しい以上、欧米と同じスキームをそのまま持ち込むことはできない。ここで鍵を握るのは「グループ経営」の発想である。会計・税務の中核は維持しつつ、周辺のBPO、会計アウトソーシング、管理会計・CFO支援、データ分析やAI実装といった事業の会社に限って外部資本を受け入れる。――このモデルなら、日本の規制環境のもとでも現実味がある。外部資本を利用してレバレッジを効かせた成長投資を行いながら、M&Aなどを狙うことが可能となる。まとめ結局のところ、今回の記事が示すのは、会計業界が「職人の共同体」から「テクノロジーと資本を前提にしたプラットフォーム産業」へと静かに移行しつつあるという事実だ。日本の会計業界にとっての現実的な道は、会計・税務の公共性をきっちりと守りながら、周辺領域での成長投資を積極的に取り入れることにある。そのための設計作業こそが、会計業界の次の10年に向けて最も価値のある経営課題ではないか。