個人投資家がスタートアップに投資するときの税制優遇措置「エンジェル税制」が、令和7年度の税制改正でさらに使いやすくなりました。とくに新設された「繰戻し還付制度」により、前年に発生した株式譲渡益(売却益)に対して、翌年の投資額をさかのぼって所得税の還付を受けられるようになります。1. 制度の目的と全体像エンジェル税制とはスタートアップなど未上場株式(=特定株式)への投資を促進するため、投資元本を譲渡益から控除したり損金算入したりできる仕組みのこと。新設の「繰戻し還付制度」とは①前年に株式譲渡益が出た個人投資家が②翌年中に特定株式を取得(再投資)すると③前年分の所得税を「さかのぼって」還付請求できるこれにより、利益確定のタイミングと再投資タイミングを分離でき、年末ぎりぎりの売却でも焦らず投資先を選べる、もしくは翌年も起業特例が利用できるようになります。2. 適用対象と要件の具体例(令和7年中に譲渡益が発生し、令和8年に再投資する場合)この制度がどのように適用されるかを示す例として、令和7年中に一般株式や上場株式で譲渡益が発生した個人が、翌令和8年にその令和7年分の確定申告を行い、同時に再投資を行う場合を考えます。項目内容譲渡益発生年令和7年中に「一般株式・上場株式等」を売却して利益が出た年再投資期間令和8年1月1日~同年12月31日再投資対象株式エンジェル税制の「特定株式」(未上場株式など)添付書類「翌年に特定株式を取得する予定」であることを示す書類適用要件のポイント利益発生年の確定申告令和7年中の譲渡益を通常どおり確定申告。※この時点で“令和8年に特定株式を取得予定である旨”の添付書類を付けないと後の還付が受けられません。翌年中の再投資令和8年内(1/1~12/31)に特定株式の「払込」を完了して取得すること。翌年分の確定申告での還付請求再投資額のうち、譲渡益から控除しきれなかった部分(特定株式控除未済額)を令和8年分確定申告書で「還付請求」します。制度概要図※”経済産業関係 税制改正について”より引用3. 手続きフローの例(令和7年中に譲渡益が発生し、令和8年に再投資する場合)令和7年2月~3月頃:令和7年中の株式売却益を集計し確定申告の準備同時に「令和8年に再投資する予定」である旨を記載した書類を用意令和7年3月確定申告提出時:必ず「再投資予定書類」を申告書に添付添付がないと、この制度自体が使えなくなる令和8年1月~12月:特定株式の払込(口座への入金)を実行し、株式を取得取得日・払込金額を記録しておく令和8年2月~3月頃:令和8年分の株式譲渡益と再投資額を集計「譲渡益から控除しきれなかった投資額」(=特定株式控除未済額)を計算令和8年3月確定申告提出時:令和8年分の確定申告書を提出する際に、特定株式控除未済額に対応する部分の所得税の額の還付を請求する。4. 特定株式控除未済額の計算例項目金額例令和7年の譲渡益合計500万円令和8年の再投資額300万円令和8年の譲渡益100万円→令和8年の譲渡益から控除可能額100万円特定株式控除未済額300万円 − 100万円 = 200万円この200万円分を令和8年分確定申告で「還付請求」します還付額=特定株式控除未済額に対応する部分の所得税の額5. 短期的な売却時には調整計算が必要に改正前の制度では、特定株式を取得した翌年に売却しても、令和5年度改正で投資額20億円までの部分は調整計算が不要になる、いわゆる「20億円の非課税措置」が設けられていました。ただし、取得した翌年に特定株式を売却する短期取引は制度の趣旨と異なるため、改正後はその場合に限り「投資額20億円までの非課税措置」が使えず、一定の調整計算が必要となります。まとめ再投資期間は「翌年1月~12月」。申告時の添付書類がないと還付は受けられない。短期売却は制度が適用外となり、一定の調整計算が発生。*今回は、あくまでもエンジェル税制について、大まかな目安を示したものにすぎません。本記載方法のご案内を参考にされたことにより、万一損害等が生じた場合には一切の責任を負いませんのでご了承ください。エンジェル税制・起業特例に関するお悩みがあればぜひ一度ご相談下さい。